おこなっている研究

〜 なぜウイルス研究? 〜

1. はじめに

1-1. なぜウイルスを用いた研究なのか?

 ウイルス研究と聞いてみなさんはどんなイメージを持ちますか?危険だ、マニアックだ、物好きだ、おおよそポジティブな言葉が聞こえてこないかもしれません。ウイルスは生命体にとっての「異物」です。私たちはあくまで生命体に興味がありますが、生命体を、異物との出会いの観点から研究しています。

生命体が異物と出会う時、場合によっては拒否、時には許容し、また出会いにより生命体が変容することもあります。人間も他者を時には拒み、一方で友情を育み、また影響を受けますが、そんな他者との人間関係を通して、実は自分が隠し持っていた性格を思い知ることがあると思います。私たちは異物との出会いの場を切り口に生命体自身と異物を理解する、そんな生命医科学研究を推進します。異物としてのウイルスは性質として実に多様、また多彩な現象を引き起こします。ウイルスをあやつり観察する術を磨くとともに、ウイルス感染と宿主生命体が織りなす世界から生命過程の何たるかを学び、学術的・社会的に新たな価値を提案していきます。

1-2. どんなウイルスを使っているのか?

 私たちは主に、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、D型肝炎ウイルス(HDV)を用いています。HBV、HCVはともに肝がんを引き起こす腫瘍ウイルスですが、実は全く異なる個性を持ちます(そもそもゲノム自体がそれぞれDNA、RNAと異なります)。一方HDVはウイルス界でも稀有なほどに非常に”尖った”特徴を有します(自身を増やす酵素もなければ纏うべきエンベロープすら自前で用意しないこの物体を、果たしてウイルスと言っていいのでしょうか? )。これら全く特徴の異なる3種のウイルスを用いると、生命体の様々なかたちを見ることができそうです。

 また肝炎ウイルス感染症は世界の公衆衛生上、極めて重要な問題を提示しています。持続感染者は世界に3億人以上にのぼると推計され、肝炎ウイルス持続感染は慢性肝疾患、特に肝硬変・肝がん発症の最大の原因です。WHOが指定する四大感染症のうちエイズ、結核、マラリアはいずれも減少傾向にある一方で、肝炎のみが唯一増加を続け、毎年130万人もの人々がこの疾患で命を落とします。そのため世界の製薬会社が現在、開発対象として最も重要視する感染症の一つです。つまり肝炎ウイルス感染症の制御、感染予防、治療は社会的に強く求められており、研究成果は臨床や社会へのインパクトに直結します。

2. どんな研究をしている?


2-1. 解析スタンス

 生命体とウイルスの研究は多岐にわたります。生命体によるウイルス排除原理やそのメカニズム、逆にウイルスが宿主を利用した増殖・共生や宿主選択戦略、ウイルスの高頻度変異による環境適応・宿主との共進化・流行伝播の仕組み、病原体ウイルスが引き起こす宿主病態形成機構、またウイルスを道具に利用した応用研究、もちろんこれら基礎知見を利用した予防、治療、創薬研究などなど。どんな研究を展開するかは、あとはご自身の興味とひらめき、こだわりと目的意識、つまり個性がモノを言います。そんな「ウイルス研究」は、実は非常に裾野が広い複合生命科学として捉えることができ、フルコース料理を一通り味わえる、魅力的な研究対象だと思っています。

 私たちは、ウイルス学基礎研究と創薬研究の2本の柱に加え、現在の枠組みにハマらない分野融合型研究も取り入れています。解析手法として、ウイルス感染実験とともに、他の多くの生命科学分野でも共通の遺伝子操作、生化学的相互作用解析、細胞生物学・分子生物学的手法などをベースとしますが、チームに特徴的なアプローチとして、化学物質(低分子化合物、リガンド等)を解析ツールとして汎用します。化学物質という魔法の薬で引き起こされる生物現象の撹乱状態を解析し、これを分子の言葉で説明する手法は化学遺伝学と呼ばれます。私たちは、ウイルス感染現象を化学遺伝学で解き明かし、また魔法の薬から本当の治療薬開発を目指しています。また最近は実験データに加えて、数理モデルとコンピュータシミュレーションを利用し、ウイルスの時間経過ごとの振る舞いをモデル構築し、ウイルス感染をシステムとして理解する研究も進めています。このように私たちは宿主でのウイルス感染を、生物学、化学、数学で培われたノウハウを利用して解析しています。他にも新しい手法は固定観念にとらわれず、まずは取り入れて新しい世界を模索して参ります。

2-2. 現在主におこなっている研究

・ 宿主を利用したウイルス増殖の仕組み

・ ウイルス感染増殖を阻害するシーズ探索、創薬研究

・ ウイルスの宿主選択の仕方

・ ウイルス感染による宿主の変容、病態形成

・ ウイルス動態の時系列モデル構築、運命予測

・ ウイルス培養系を利用した新たな天然物の宝探し

・ 抗ウイルス治療の最適化

・ 脂まみれのウイルス感染細胞の解析

・ ウイルス感染における時間の意義

など

3. 現在(2018年度)実施中の研究プロジェクト


・ 日本医療研究開発機構 (AMED)・肝炎等克服緊急対策研究事業 研究代表者

・ AMED・感染症研究革新イニシアティブ(J-PRIDE) 研究代表者

・ AMED・B型肝炎創薬実用化等研究事業 研究代表者

・ 科研費・基盤研究(B)  研究代表者

・ AMED・B型肝炎創薬実用化等研究事業 研究分担者

・ 科研費・基盤研究(B)(特設分野研究) 研究分担者

・ 科学技術振興機構 (JST)・戦略的創造研究推進事業 (CREST) 研究分担者

・ 科学技術振興機構 (JST)・未来社会創造事業 (MIRAI) 研究分担者

・ その他、様々な研究プロジェクトの研究協力者


研究風景


国際シンポジウム、学会発表、チーム内ミーティングなどなど